右が私です。左は釣賀さんです

   イラン皆既日食旅行記  小川 和己


 今回の日食をイランと決めたのは、昨年の7月である。晴天率などからみて、間違いなく見られると思ったからである。それからと言うもの、機材はどれにしようか。どのように撮影しようか。と思案する毎日が続いた。ところで心配事がひとつあった。それはイランという国が、私たち日本人にとってあまり馴染みがないということである。「イラン・イラク戦争」「イラン革命」そしてホメイニさんのいかつい顔が浮かんできて、怖い国というイメージがある。
仲間同士の会話で、入国できても皆既帯に入れるのかどうか、高価な機材を持っていっても大丈夫なのかどうか、話しあったものである。
その後、旅行会社の現地報告書には、イランの人たちはたいへん親しみやすく、日本人には好意的であるということが記されてあった。

  さて出発1週間前になり、持っていく機材とフィルムを最終的に決めた。架台は五藤光学のマークX赤道儀とし、その上に口径10センチの屈折望遠鏡、眼視観測用に口径5 センチの屈折望遠鏡と7X35の双眼鏡、ビデオカメラ、そして35oの広角レンズで風景とコロナを一緒に撮影することにした。 フィルムはいろいろと検討した結果、発色と粒状性の良さからフジクロームベルビアとした。  

8月11日、日食当日、私は日の出を見るために5時に起床し、早朝の清々しい空気に触れた。空を見上げると快晴である。まるで前途を暗示するかのように・・・。午前中はイスファハン市内を観光し、レストランで昼食を済ませ、2台の専用バスで25キロメートル先の皆既帯に入った。現地では北西の方向に少し雲があったが、心配する程のものではなかった。

第1接触まであまり時間がないので、急いで梱包を解いて赤道儀を組み立てることにした。最初は第1接触まで、あと何分であったのが、皆既まであと何分と変わっていく、私の心の中に焦りが出始めてきた。

まだ機材の組立が完了していないのである。

  刻一刻と太陽は皆既に向けて細くなっていく。無情にも時間は過ぎて行く。私はここで、きっぱりとビデオと広角の撮影を断念し、10センチ直焦点一本に的を絞った。  「残念だが仕方がない。」時間がないのである。

 皆既十数分前、太陽の左側に内合直前の金星を見つける。
周りの人たちに金星が見えていることを告げる。
辺りは徐々に暗くなってきた。


 「皆既6分前」とのアナウンス。
私はペンライトを取りに50メートル位離れたところに行こうとした時、
近くの女の人から「何処へ行かれるんですか。」との声が・・・。
これから動くことは、たいへんな冒険だからである。
しかし、私には昨年の苦い経験がある。
コロナの見過ぎで、目が幻惑され露出のダイヤル目盛りが見えなかったからである。

 ペンライトを持って戻って来た私は、第2接触が近いことを知り、直ぐ様10センチのフィルターを外しピントの確認をしようとしたが、ダイヤモンドリングが始まりそのままシャッターを切った。
1/250秒、1/125秒と10コマ撮った時、私はカメラのファインダーを覗きピントの確認をした。
やはりピントがずれていた。

 私は再度ピントを合わせ、1/250秒から1/8秒まで2コマずつ、確実にシャッターを切っていった。
シャッターを切りながらも、私は7倍の双眼鏡を覗いていた。
ピンク色に輝くプロミネンスは、太陽の至る処に見え、コロナは全周に広がった典型的な極大型である。
「全く素晴らしい!」

 いよいよ第3接触が近づいてきたので、私はプロミネンスとダイヤモンドリングの撮影のため、
 露出を1/ 250秒に戻した。
 イスファハンの地から月の影が去るころ、再びダイヤモンドリングとなり、私は夢中でシャッターを切った。
 斯くして、今世紀最後の日食は終わった。あまりにも短い幕切れであった。

 日食の素晴らしさを、写真やビデオで、または言葉で巧みに表現しても、とても理解してもらえるものでは ない。私は改めて、この場に居合わせる境遇に感謝したいと思う。

 最後に素晴らしい写真が撮れたのも、私の荷物を持って下さった人のお蔭であり、また高価なFC100を使用する機会を与えて下さった三原の麻田さんに、この場を借りて心より感謝申し上げます。

1999年8月11日
イランのイスファーハンにて
撮影データ タカハシFC100(口径100ミリ、焦点距離800ミリ、F8直焦点)
フジクロームベルビア。ペンタックスLXボディー。
イスファハン(イラン)。撮影時刻は現地夏時間。
撮影者:小川和己

     
プロミネンスと内部コロナ
 現地時間16時33分。露出1/125秒 

 

外部コロナ
16時34分。露出1/8秒

プロミネンス
16時34分。露出1/250秒

ダイヤモンドリング
16時34分。露出1/250秒

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