概要

現代ではオペラグラスくらいしか見かけなくなったガリレオ式望遠鏡ですが、ガリレオ・ガリレイがこのタイプの望遠鏡で
天体観測を始めたのが17世紀初頭ですので、ほぼ400年経ちます。(図1)

 天体観測のルーツといえるガリレイの望遠鏡がどんなものであったのか、ガリレイは発見した天体をどのように見たのか、
という点に興味をもち、実験的に彼の望遠鏡を再現してみました。(図2)

今回は近いスペックのレンズを製作し簡単に組み立てただけですが、

以下の3点を調べてみました

1 光学系を調べる

2 ガリレイの発見した天体を観察する

3 望遠鏡の操作性。

1 ガリレイの望遠鏡のスペックとレンズの製作     

1-1 光学系を調べる               

いくつかの文献を調べますと、ガリレイは数十本の望遠鏡を製作した
とされています。その中でイタリア光学研究所がテストした2本望遠鏡
の光学データがわかりましたので、そのうち1本のデータをもとに実物
に近いスペックのレンズを製作しました。(表1)

1 ガリレイの望遠鏡のスペックとレンズの製作     

1-1 光学系を調べる               

いくつかの文献を調べますと、ガリレイは数十本の望遠鏡を製作したと
されています。その中でイタリア光学研究所がテストした2本望遠鏡の
光学データがわかりましたので、そのうち1本のデータをもとに実物に
近いスペックのレンズを製作しました。(表1)


図1 ガリレイの望遠鏡

1-2 ガラス材

ガラス材は(表1)の屈折率に着目し、比較的近い数値のK3という昔から眼鏡に使われているクラウン系のガラス材を

今回使用しました。    

K3  n=1.525 アッベ数58 

1-3 レンズの製作と精度

眼鏡レンズを製作しているレンズ工場にレンズ研磨を依頼しました。

対物レンズの性質を見るため(表1)のカーブに近い研磨皿で製作した結果

焦点距離距離は10cm近く短く仕上がりました。

またガリレイのレンズの精度はイタリア国立光学研究所の測定によれば1.5ラムダ程度ですので、一般の眼鏡レンズの精度1.5〜2ラムダに近いと思われます。

2 天体を観る

今回ガリレイが発見した以下の有名な天体を観測しました。

  14倍程度ですから大きなクレーターは楽に確認できます。

   ただ非常に狭い視野ですので30分の月の視直径は一度に見ることができません。

木星 ガリレオ衛星は微かな点像ですが、はっきり確認できました。

   木星の縞は見えませんでしたが円盤像に見えました。

土星 恒星とは明らかに異なる楕円像を確認しました。土星本体と輪が

   重なって楕円体に見えます。ガリレイが見た土星の耳というより

   紡錘状です。輪の傾きのせいでしょうか? 

プレアデス

    視野に見える明るい恒星は1つか2つしかありません。

    非常に狭い視野で恒星間の距離の感覚をつかむのが大変でした。

    また日周運動により1分で視野から外れてしまうため、ガリレイが

    スケッチを画くにはずいぶん時間がかかったように思います。(図3)    

    視界の測定とガリレイの望遠鏡の操作

    非常に狭い視界のため前述の天体観測にはずいぶん苦労しました。

    そこでおおよその視界を測定してみました。また天体の導入や追尾の

    操作性も報告します。

3-1 視野の測定

   南中している恒星の視野の通過時間を測定し、実際の観測姿勢での

   視野の広さを測定しました。というのはガリレオ式はケプラー式のように

   視野絞りは接眼レンズの視野環ではなく観測者の瞳孔になりますのでアイポイントの位置により視野の広さも変わってきます。

   南中している赤道付近の恒星を見る観測姿勢は苦しくアイポイントの固定は難しいですので、視野中心さえ正確に確認すること

   ができませんでした。

   そのため測定にはずいぶん誤差があると思われます。

   したがって測定値は観測姿勢での視野広さの参考程度にとどめておきます。

   参考 視野の広さの測定  15分〜23分

3-2 天体の導入と追尾

   このように非常に狭い視野ですので、ケプラー式になれた私にはわずか14倍

   でもファインダー無しでの天体の導入は苦心しました。

   今回は簡単な微動付きの経緯台に載せましたが、天体の追尾には微動装置が

   ずいぶん役に立ちました。

   当時は肉眼での観測技術が大変すすんでいたことが、天体の導入に寄与したのではないかと想像されます。

   また長い鏡筒は上下動が難しく、ガリレイは操作にずいぶん習熟していたと思われます。

感想

今回は仮組み立ての鏡筒のため光軸不良等でアスが残り、光学特性の詳細を調べることができませんでした。

機会をみてしっかりした鏡筒で再度観測できればと思います。 木星・土星などの惑星の観測ではもっと拡大して

細部を見たいと実感しました。ガリレイが数十本もの望遠鏡を製作したのはこういった願望が強かったのではな

いかと想像します。

望遠鏡の光学系や鏡筒の製作が経験則によるものであった時代に、彼は常により高性能なものを求めていたよ

うに感じました。 

表1 フローレンス科学博物館所蔵・ガリレイが使った望遠鏡のデータ実測値

望遠鏡 レンズ 曲率半径 中心厚 レンズ径 有効径 焦点距離 屈折率 倍率
第1号 対物 1面 +950mm 2.5mm 51mm 26mm 1330mm 1.5284 14.15
    2面 -2700            
  接眼 1面 ∞ 3.0 26 11 -94.0 1.5160  
    2面+48.5            

参考文献

     吉田正太郎 望遠鏡発達史上 誠文堂新光社  1994

     吉田正太郎 アマチュアのための望遠鏡光学・屈折編 誠文堂新光社1989

     広瀬秀雄  望遠鏡    中央公論社    1975

     久保田弘  光学     岩波書店     1964

 

  図2 仮組み立てした再現14倍望遠鏡   図3 ガリレオのプレアデスのスケッチ