ネビュラフィルターとは

解説:アストロクラブ会員 池田達哉   2010年8月改訂


星を見る時に、周りの光によって暗い星が見えなくなる光害の影響は、星雲や銀河や観測する時に大きな障害になり、暗いものは都会では全く見えないこともしばしばです。ネビュラフィルターと呼ばれるフィルターを使うと、このような光害のもとでも星雲を楽しめるようになります。星雲星団観察に関する本や雑誌の特集を見ても、ネビュラフィルターについての解説がほとんどなく、ある種、無視されているような印象さえあります。そこで、私の25cm F6のドブソニアン望遠鏡を使った経験を交えて解説します。
 


光害とは?
 

この光害には3つの種類があり、
1つ目は自然に起きる大気光と呼ばれる弱い光由来もので、太陽からの荷電した粒子が大気にぶつかることで起きます。
2つ目は近所の人工光で近くの街灯などの光が直接目に入ってきて邪魔になるものです。
3つ目が俗に言われる光害で、様々な照明から成る街明かりが空に映って空が明るくなり暗い天体が見えなくなります。2つ目は、望遠鏡を見るときに布を頭からかぶるなど、直接光を遮断して防ぐことが出来ますが、他の2つの光害はネビュラ(星雲)フィルターと呼ばれるフィルターで遮断することが出来ます。
ネビュラフィルターの原理
大気光と街明かりは550nmから630nm付近の黄色を中心とするスペクトルと436nmの紫色のスペクトルのピークがあります。一方、自ら光を発する散光星雲の光は励起された水素(H-α、656.3nm;H-β、486.1nm)と酸素(O-III、495.9nm)の光からなり、光害の光源とは異なった波長を持ちます。ネビュラフィルターはこの性質を利用して光害の光を選択的に遮断し星雲の光だけ、特にH-βとO-IIIのピークを含む青から緑にかけての光を通すものです。ちなみに、プレアデス星団を覆う星雲は散光星雲の中でも反射星雲と呼ばれ、恒星の光と同じ波長で光っているのでフィルターの効果は少ないといわれています。
 
ネビュラフィルターの種類

この種のフィルターにはブロードバンド、ナローバンド、ラインの3種類あります。ブロードバンドタイプは430〜550nmの比較的広い波長の光を通すフィルターで、ナローバンドタイプは480〜520nmのH-βとO-IIIのピークを選択的に通し、ラインタイプはH-βまたはO-IIIの一方だけを通すものです。
ブロードバンドフィルター
「このタイプにはLumiconのDeep-Sky、Thousand Oaks OpticalのLP1、AstronomikのCLS、IDASのLPS-P2などがあります。このタイプは眼視用としてはあまり効果がないのですが、集光力が弱い小口径の望遠鏡や双眼鏡に有効です。また、このタイプのフィルターは青色の光を通すことから火星や木星の模様の観察に効果があると言われています。このタイプの中でも、LPS-P2フィルターは、光害の原因となる水銀灯やナトリウム灯の輝線のみカットし、他の光は透過するという特性のため、他のフィルターと違って比較的星に色がつきにくく、視野の星が減りにくいことから、銀河の観察にも有効です。特に、光害が少なく条件がいい場所でも空が明るく感じる条件では背景を暗くして見やすくれます。

写真はORIONのUltraBlock

ナローバンドフィルター
 

このタイプにはAstronomik、LumiconのUHC、Thousand Oaks OpticalのLP2、米OrionのUltraBlockなどがあります。これを使うと今までよく見えなかった散光星雲や惑星状星雲が突然見え出します! 私の経験でも、いっかくじゅう座のバラ星雲、白鳥座の網状星雲、北アメリカ星雲が分かるようになり、こと座のリング星雲やオリオン大星雲がより広い範囲にガスが広がっているのが分かるようになります。

写真はThousand Oaks OpticalのLP2

O-IIIフィルター:ラインフィルター
 このタイプにはAstronomik、Lumicon、米OrionのOIII、Thousand Oaks OpticalのLP3などがあります。このタイプを使うとナローバンドフィルターに比べてより微妙な構造が見えるようになります。ナローバンドフィルターでぼんやりした雲のようだったバラ星雲の微妙な濃淡も分かり、網状星雲も寄り浮き上がって見えるようになります。また、惑星状星雲も闇の中に浮き上がるので小さくて見つけにくいものでも比較的楽に見つけられるようになります。散開星団M46の中にある惑星状星雲 NGC248もこのフィルターでよく見えるようになりました。ただし、Hβの励起光を多く含むと思われる散光星雲については逆に見えなくなってしまうものもあります。M42の北側にある鳥のくちばしのような形をしたM43はこのフィルターを使うと消えてしまいます。
写真はThousand Oaks OpticalのLP3
Hβフィルター:

 このタイプにはAstronomik、Lumicon、米OrionのHβやThousand Oaks OpticalのLP4があります。このフィルターはその用途から、馬頭星雲フィルターとも呼ばれていて、暗くて見つけるのが非常に大変なオリオン座の馬頭星雲を見つけるのによく使われています。私も馬頭星雲を見る事が出来ました。ただ、写真のようにはっきりとではなく、そこにあることが分かる程度ですし、目印になる星がほとんど見えないので探すのに苦労します。このフィルターを使うと、他には天体写真に良く出てくるペルセウス座のカリフォルニア星雲などもその存在が分かるようになります。また、オリオン大星雲を見ると他のフィルターとは違って、セイル(sail)と呼ばれる星雲の東部にある南北に伸びる領域が強く見えるようになり面白いものです。
写真はThousand Oaks OpticalのLP4
ネビュラフィルターの使い方
 このように各種フィルターを使い分けることで、今まで見たこともなかったような星雲が見えるようになりますが、より効果的に見るためには暗いところに目を慣らす必要があります。明るいところから急に暗いところに出てきても目が暗さに順応せず弱い光を見ることが出来ません。この順応には30分はかかると言われているので、観測中は懐中電灯なども赤フィルターを付けるなどして出来るだけまぶしい光を避けるように気を付ける必要があります。また、人間の目は網膜の周辺部の方が弱い光に対する感度が高いので、こういった暗い天体を見るときは視点をちょっと外して“見て見ぬ振り”をすると効果的です。、特定の波長だけを通すラインフィルターを使うとかなり減光してしまうため、10cmクラスまでの小口径のものでは視界が真っ暗になってしまう可能性大なので注意が必要です。

 どのフィルターがいいのかという話をネット上で見ることがありますが、小口径や銀河用にはブロードバンドフィルターがおすすめです。20cm以上の中口径で散光星雲を対象とした場合、ナローバンドフィルターとラインフィルターの両方がおすすめで、ナローバンドフィルターはOIIIとHβ両方が見え、ラインフィルターはそのどちらかが見えるので、まずはナローバンドフィルターで見るのがいいと思います。OIIIフィルターでコントラストがあがったように見えるのはHβをカットしているためであって、ナローバンドとラインフィルターではコントラストの違い以上に見える形そのものが違ってきますので、両方を持って使い分けるのがベストです。

 最近見つけたのですが、8cm〜10cmクラスの双眼鏡でブロードバンドフィルター、特にLPS-P2を片側の接眼部だけにはめ込んで見ると、左右のバランスがあまり崩れることなく、片側で星を見ながら、もう片方で星雲が見やすくなり結構楽しめます。

フィルターの寿命について
フィルターを購入し始めて10年以上経つのですが、最近、Thousand Oaks OpticalのLP3, LP4ともにフィルターが同心円状にくすんでしまい、Astronomikのものに買い直しています。一番古いUltraBlockとLP2はまだ無事です。表面のコーティングによって耐久性が違うようです。
ネビュラフィルターの欠点
これらのフィルターは特定の波長の光のみを通す性質があるので広い範囲の波長の光を発している星団、銀河には効果がありません。また星の光を反射しているプレアデス星団の反射星雲などにも効果はありません(試してませんが、、)。ただ、大きなM33のような大きな銀河ではそこにある散光星雲を見るのに効果があるとの話もあります。私が思うネビュラフィルターの最大の欠点は、星が見えなくなることです。例えばオリオン大星雲の中にはトラペジューウムだけでなく多くの星が散在しているのですが、フィルターをかけるとそのほとんどが消えてしまいます。バラ星雲でも同様です。また、惑星状星雲でも中心星が見えなくなってしまいます。例えば、ふたご座のエスキモー星雲では、O-IIIフィルターを使うと星雲自体ははっきり見えるようになるのですが中心星が消えてしまいます。また。星本来の色も消えてみんな青緑になってしまうのも欠点です。私の経験では、比較的明るいものについてはフィルターを付けてその場所を見つけ、フィルターを外して、高倍率にすることで光害を“薄め”てコントラストを上げる方がいい場合も多いように思います。
天体写真のカラフルな星雲の姿を見ることはこれらのフィルターでは出来ませんが、遙か彼方の生の光を直接目にすることは格別の感動があります。解説書に天体写真向きと書いてあるものでも、これらのフィルターを使うと結構見えるものですので、どんどん試してみてはどうかと思います。
私の機材の紹介です

私の機材の紹介です
ドブソニアン
スタースプリッター・コンパクト
25cmF6,主鏡(ノバオプティカルシステムズ)
双眼鏡
ロシア:2.3x40、Vixen:10x50、AD-Vixen:22x80
宮内:BJ-100iB 20x100
接眼レンズ
笠井:オルソ 5mm、
国際光器:ワイドスキャンII 30mm,
タカハシ:LE 5mm
ミード:スーパーワイド 18mm
テレビュー:ナグラー タイプ6, 13mm、プローセル 10.5mm、ラジアン 8mm, 6mm
ペンタックス:XP 4mm, XL 21mm, XW 40mm
ケーニッヒ 40mm(無印)、

ネビュラフィルター
ORION: UltraBlock
Thousand Oaks Optical: LP2, (引退LP3, LP4)

Astronomik: CLS, OIII, Hβ

IDAS: LPS-P2